Th075/Suika's Ending

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――博麗神社。幻想郷の辺境に存在している神社である。

鳴く為に、ずっと地中で耐えてきた蝉。 体内の熱を外に放出するかの如く啼く、鳥や獣達。

幻想郷の夏はこんなにも騒がしかったのか……。

 

長い間続いた宴会はいつの間にか回数を減らし、幻想郷はいつもの平穏さを取り戻していた。

幻想郷では、イレギュラーであった存在もすぐに溶け込んでしまう。

それが良い事なのかどうかは判らなかったが……

 

良い事だと思っていた。 少なくとも霊夢はそう考えていた。

 

霊夢「暑いわねぇ……今年も。

   こんなに暑いんじゃ、掃除する気も失せるわ。    お茶でも入れようかなぁ……。

   暑い時は熱いお茶ってね。ぬ~」

 

霊夢「それにしても、幻想郷には良く判らない奴が多いわねぇ。

   あいつもよく判らない奴だったわ。    何が目的だったのかも判らないし……

   それに私は負けたのにねぇ……」

 

霊夢「まぁ、力仕事の時はどこからとも無く来てくれたり、    お酒を持ってきてくれたり……親切な奴ね」

 

萃香は、何処に住んでいるのかも判らなかったが、ちょくちょく神社に遊びに来ていた。

でも、本来はイレギュラーな存在である。

溶け込んでしまうのは、幻想郷の力か、それとも霊夢の力なのか。

 

萃香「暑いよぉ。水でも撒いてよぉ~」

霊夢「あれ、いつの間に後ろに?    で、水はあっち」

萃香「私に撒けって言うのね。全く、鬼使いが荒いんだから」

 

霊夢「鬼、鬼、って言うけど……

   鬼はもう幻想郷には居られなくなって、ここから出て行ったんじゃな

   かったの?」

 

そう、今の幻想郷には鬼は居なかった。 居ない筈だった。

 

その昔、鬼と人間は命を懸けた強い信頼関係で成り立っていた。 強い信頼関係、即ち「人攫い」と「鬼退治」である。

 

……だが悲しい事に人間は、姿形は変わらなくても、心は変わる。

鬼が、鬼だけが棲むという鬼の国に居る間に……

段々と人間は鬼の存在を忘れていったのだった。

 

萃香「確かに、私達の仲間は滅多に人前には出て来ないけど……

   私は賑やかなのが大好きだから、今の幻想郷は魅力的過ぎるの」 霊夢「賑やかねぇ……。

   でも私は、たまには静かにお茶でも飲みたいと思ってるわ」

 

萃香「もっと私の仲間も、人前に出てくるようになれば良いのに」

霊夢「それは駄目」 萃香「だって……毎晩が百鬼夜行よ?」

霊夢「だって、毎晩が鬼退治になるじゃない」

 

今の人間に足りない物は、鬼が持つ『誠実さ』なのかもしれない。

そんな嘘吐きだらけの人間を、殆どの鬼は見捨ててしまったのか。

萃香は、鬼の中でも自分勝手で誠実さにもやや欠けるところがあったので、どちらかと言うと異端児だったのだ。

 

だから、イレギュラーでもすぐ馴染む。 本来鬼と人間は、人攫いと鬼退治という信頼関係で成り立っているべきだと言うのに。

 

萃香は、仲間を幻想郷に戻すチャンスだったのに、失敗してしまったのだ。萃香は人を萃めるだけではなく、人を攫う必要があったのだ。

 

失敗したのは、自らの未熟さが原因か?

それとも、陽気さか? ほんのちょっとの不誠実さか? ――本当の理由は、霊夢の能力だった事は誰も気が付かなかった。

Ending No.1 (Suimusou Ending)                ―― Congratulation!